無料で使える暗号化パスワードマネージャーとして名前が挙がるのが、Proton Pass と Bitwarden の2つです。どちらもオープンソースで、無料版でもパスワードの保存数・端末数に制限がありません。
では何が違うのか。両方の公式ページと機能比較表を1行ずつ確認し、Proton Pass については実際の管理画面も見たうえで整理しました。結論を先に書くと、純粋にパスワード管理だけが欲しいならBitwarden、メールアドレスの使い捨てまで含めてプライバシーを整理したいならProton Passです。
結論:どちらを選ぶかは「エイリアスが要るか」で決まる
先に結論から書きます。
| こういう人 | 向いているのは | 理由 |
|---|---|---|
| パスワード管理だけできればいい | Bitwarden | 無料版の完成度が高く、有料版も年額で安い。自前サーバーでも運用できる |
| 使い捨てメールアドレスも欲しい | Proton Pass | エイリアスが最初から内蔵されている。無料で10個使える |
| メール・VPN・ストレージごと移したい | Proton Pass | Proton Unlimitedに丸ごと含まれる |
| 監査レポートの新しさを重視する | Bitwarden | 直近も複数の第三者監査を毎年公開している |
| 家族6人で使いたい | ほぼ互角 | 年額がほぼ同じ。他のサービスを使うかで決まる |
以下、この判断の根拠を1つずつ確認していきます。
無料版でできること・できないこと
両社の公式ページに書かれている内容を突き合わせました。
| 項目 | Proton Pass 無料 | Bitwarden 無料 |
|---|---|---|
| 保存できるパスワード数 | 無制限 | 無制限 |
| 使える端末数 | 無制限 | 無制限 |
| パスキー | 対応 | 対応 |
| ブラウザ拡張・スマホ・デスクトップ | あり | あり |
| パスワード生成 | あり | あり |
| 使い回し・脆弱なパスワードの警告 | あり | あり |
| メールエイリアス | 10個(内蔵) | 外部サービス連携のみ |
| 保管庫(分けて整理する箱) | 2個 | 個人保管庫+無料組織 |
| 他人との共有 | 2人まで | 1人まで |
| 内蔵の2FA(認証コード生成) | なし(有料) | なし(有料) |
| ファイル添付 | なし(有料) | なし(有料) |
| ダークウェブ監視 / 健全性レポート | なし(有料) | なし(有料) |
| 緊急アクセス | なし(有料) | なし(有料) |
| 自前サーバーで運用 | 不可 | 可能 |
並べてみると、有料に回している機能がほとんど同じことが分かります。2FAの認証コード生成、ファイル添付、緊急アクセス、漏洩監視。この4点はどちらも無料版では使えません。
つまり無料版で本当に差が出るのは、メールエイリアスの扱い1点です。ここだけ性質がまったく違います。

エイリアスの決定的な違い:内蔵か、外部サービス頼みか
ここが両者のいちばん大きな違いです。
Proton Pass:アカウントを作った時点で使える
新規作成メニューを開くと、ログイン情報やカードと並んで「エイリアス」が最初から入っています。他のサービスに登録する必要も、APIキーを取ってくる必要もありません。無料で10個まで作れます。
Bitwarden:外部のエイリアスサービスが別途必要
Bitwardenにも「Forwarded email alias(転送用エイリアス)」という機能があります。ただしこれはエイリアスを自前で発行する機能ではなく、他社のサービスを呼び出す機能です。公式ドキュメントには、連携先として次のサービスが挙げられています。
- SimpleLogin
- Addy.io(旧AnonAddy)
- Firefox Relay
- Fastmail
- Forward Email
- DuckDuckGo
使うには、この中のどれかにアカウントを作り、APIキーを発行してBitwardenに登録する手順が必要です。公式ドキュメントにも「多くは無料プランを提供しているが、一部は有料契約が必要な場合がある」と書かれています。
この差をどう評価するかは、使い方次第です。エイリアスを使わないなら、Bitwardenの機能不足にはなりません。すでにSimpleLoginやFastmailを使っているなら、Bitwardenから呼び出せる方がむしろ便利です。
一方で「登録するサイトごとに捨てアドレスを使いたい、でも管理を増やしたくない」なら、1つのアカウントで完結するProton Passの方が明らかに楽です。
▶ Proton Passを公式サイトで見る(無料アカウントで10個のエイリアスが使えます)

有料版の料金を比べる
2026年7月26日時点で、両社の公式ページに表示されていた金額です。
| プラン | 表示価格 | 年額 |
|---|---|---|
| Proton Pass 無料 | ¥0 | ¥0 |
| Pass Plus(1人) | 月 ¥374 | ¥4,488 |
| Pass Family(6人) | 月 ¥624 | ¥7,488 |
| Proton Unlimited(1人・全サービス) | 月 ¥1,249 | ¥14,988 |
| Bitwarden 無料 | $0 | $0 |
| Bitwarden Premium(1人) | 月 $1.65 | $19.80 |
| Bitwarden Families(6人) | 月 $3.99 | $47.88 |
注意点として、Bitwardenは米ドル建てです。円で見た金額は為替で動きます。仮に1ドル150円で換算すると、次のようになります。
| 比較 | Proton | Bitwarden(150円換算) | 差 |
|---|---|---|---|
| 個人・年額 | ¥4,488 | 約 ¥2,970 | Bitwardenが約1,500円安い |
| 家族6人・年額 | ¥7,488 | 約 ¥7,182 | ほぼ同額 |
読み取れることは2つあります。
- 1人で使うならBitwardenの方が安い。 年1,500円ほどの差なので、パスワード管理だけが目的なら素直にBitwardenです
- 家族6人だとほぼ横並びになる。 ここまで来ると価格では決まりません。他のサービスを使うかどうかで選ぶことになります
なお、Proton Passだけを単体で契約する意味は薄いと私は考えています。Pass Plusが年¥4,488、全部入りのProton Unlimitedが年¥14,988。差額の1万円ちょっとでメール・VPN・カレンダー・ストレージが付いてくる計算です。この損得はProton Unlimitedは元が取れる?で計算しています。

セキュリティ監査:ここはBitwardenの方が開示が厚い
アフィリエイトリンクを貼っている立場ですが、事実として書きます。公開されている監査情報の量と新しさは、Bitwardenの方が上です。
Bitwardenが公開している監査
コンプライアンスのページに、監査ごとの実施年・実施機関・対象がすべて列挙されていました。
| 年 | 実施機関 | 対象 |
|---|---|---|
| 2025 | チューリッヒ工科大学 応用暗号グループ | 暗号処理(サーバーが完全に悪意ある前提で検証) |
| 2025 | Unit 42(Palo Alto Networks) | モバイルアプリ・認証アプリ |
| 2025 | Fracture Labs | Webアプリとネットワーク |
| 2024 | IOActive | クライアントアプリとSDK |
| 2024 | Mandiant | モバイルアプリ |
加えて ISO 27001 認証、HIPAA の第三者監査、GDPR・CCPA への準拠も明記されています。
Proton Passが公開している監査
Proton Pass単体の監査として公開されているのは、2023年5〜6月にドイツのCure53が実施したものです。対象はモバイルアプリ・ブラウザ拡張機能・APIで、レポートは一般公開されています。
この監査で私が評価しているのは、未解決の指摘を隠していない点です。公式ブログには、中程度の深刻度の指摘が1件(PRO-01-003 WP1)残っており、Android OS側が必要な情報を提供していないため現時点では解決できない、と明記されています。
オープンソースの範囲が違う(セルフホストできるのはBitwardenだけ)
どちらも「オープンソース」を掲げていますが、公開している範囲が違います。GitHubの公開リポジトリを直接確認しました。
| Proton Pass | Bitwarden | |
|---|---|---|
| クライアント(アプリ・拡張機能) | 公開(GPLv3) | 公開 |
| サーバー・バックエンド | 非公開 | 公開(AGPL-3.0) |
| 自前サーバーでの運用 | できない | できる |
Proton Passの公開リポジトリ群(github.com/protonpass)に並んでいるのは、iOSクライアント、Androidの認証アプリ、共通ライブラリなど、いずれも手元で動く側のコードでした。サーバーやAPIの実装は含まれていません。
対してBitwardenは bitwarden/server というリポジトリを公開しており、説明にも「API、データベース、Dockerを含むバックエンド」と書かれています。ライセンスは AGPL-3.0 です。
これが効いてくるのは、「自分のサーバーにパスワードを置きたい」という要求がある場合だけです。そこまでやる人は多くありません。ただし要求がある人にとっては、Bitwarden以外に選択肢がないレベルの決定打になります。
結局どちらを使うべきか
私の整理はこうです。
Bitwardenを選ぶべき人
- パスワード管理だけが目的。 無料版で必要十分。有料に上げても年3,000円前後
- すでにSimpleLoginやFastmailを使っている。 Bitwardenから呼び出せるので不足しない
- 自前サーバーで運用したい。 この時点で選択肢はBitwarden一択
- 監査レポートの新しさを重視する。 毎年複数の監査が出ている
Proton Passを選ぶべき人
- 使い捨てメールアドレスを増やしたい。 無料で10個、追加のアカウントなしで完結する
- GmailやGoogleドライブから離れたい。 パスワードだけ移しても他が残る。Unlimitedなら全部まとめて移せる
- 管理するアカウントを増やしたくない。 1つのProtonアカウントでメール・VPN・ストレージ・パスワードが揃う
どちらを選ぶにせよ、いま使っていないなら、どちらかを使い始めること自体の効果が圧倒的に大きいです。ブラウザにパスワードを覚えさせたままの状態から抜けるのが先決です。
よくある質問(FAQ)
Proton PassとBitwarden、無料版で使えるのはどちらが多いですか?
有料に回している機能はほぼ同じです。内蔵の2FA認証コード、ファイル添付、緊急アクセス、漏洩監視は、どちらも無料版では使えません。実質的な差はメールエイリアスの扱いで、Proton Passは10個が内蔵されているのに対し、Bitwardenは外部サービスのアカウントとAPIキーが別途必要です。
Bitwardenの無料版でもエイリアスは使えますか?
使えますが、Bitwarden自身がエイリアスを発行するわけではありません。SimpleLogin、Addy.io、Firefox Relay、Fastmail、Forward Email、DuckDuckGoのいずれかにアカウントを作り、APIキーをBitwardenに登録して呼び出す形になります。連携先によっては有料契約が必要です。
料金はどちらが安いですか?
1人で使う場合はBitwardenです。Bitwarden Premiumが年$19.80、Pass Plusが年¥4,488で、1ドル150円換算なら年1,500円ほどの差になります。ただし家族6人プランはBitwarden $47.88、Pass Family ¥7,488でほぼ同額です。Bitwardenは米ドル建てのため、円での金額は為替で変動します。
セキュリティが高いのはどちらですか?
公開されている監査情報の量と新しさではBitwardenが上です。2024年から2025年にかけて、チューリッヒ工科大学、Unit 42、Fracture Labs、IOActive、Mandiantによる監査を公開しており、ISO 27001認証も取得しています。Proton Passで公開されているPass単体の監査は2023年のCure53によるものですが、未解決の指摘を明示している点は評価できます。
自分のサーバーで運用できますか?
Bitwardenはできます。サーバー側のコードもAGPL-3.0で公開されているためです。Proton Passはクライアント側のみ公開でサーバーの実装は非公開のため、自前運用はできません。
両方を併用してもいいですか?
技術的には可能ですが、おすすめしません。パスワードが2箇所に分散すると、どちらに入れたか分からなくなり、結局ブラウザ保存に戻ってしまいがちです。どちらか一方に寄せた方が確実です。
まとめ
確認した結果をまとめます。
- 無料版の差はエイリアスの1点。 Proton Passは10個が内蔵、Bitwardenは外部サービスのアカウントとAPIキーが必要
- 有料に回している機能はほぼ同じ。 2FA認証コード、ファイル添付、緊急アクセス、漏洩監視はどちらも有料
- 1人なら Bitwarden が年1,500円ほど安い。 家族6人だとほぼ同額になる
- 監査の開示はBitwardenが厚い。 毎年複数の第三者監査を公開し、ISO 27001も取得している
- セルフホストできるのはBitwardenだけ。 サーバー側のコードも公開されている
- Proton Passが効くのは「一式で移す」とき。 メール・VPN・ストレージまで含めて整理したい場合
パスワード管理だけを解決したいならBitwardenで十分です。私がProton Passを使っているのは、メールもストレージもVPNも同じアカウントで完結させたかったからで、そこに価値を感じないなら無理に選ぶ必要はありません。
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